大阪地方裁判所岸和田支部 昭和47年(わ)38号 判決 1977年6月03日
主文
被告人を懲役四年に処する。
未決勾留日数中二〇日を右刑に算入する。
押収してある花小刀一丁(昭和四七年押第四九号の一)を没収する。
訴訟費用中、証人大谷義治に支給した分(昭和四七年(わ)第三八号事件の第五、第六回公判期日分と昭和五〇年三月四日の公判準備期日分)の二分の一及び証人岡田充朗に支給した分(昭和五〇年六月一三日の公判準備期日分)の三分の一を被告人の負担とする。
昭和五〇年(わ)第三七号電波法違反の公訴事実第二について、被告人は無罪。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一、広岡和巳と共謀のうえ、昭和四七年三月八日午後一時ごろ、泉佐野市中庄一、二三一番地檀波羅公園において、佐野南海交通株式会社樽井営業所長、大谷義治(当四七年)が、同営業所内の黒板にタクシー料金未払者として右広岡の姓を表示したことに因縁をつけ、右大谷に対し、被告人において所携の「花小刀」を突きつけ「言い残しておくことはないか」等と怒号し、同人の生命身体にいかなる危害を加えるかも知れないような気勢を示し、もつて兇器を示して脅迫したうえ、更に右広岡において、前記小刀をもつて、同人の顔面、背部を切りつけ、よつて同人に対し、加療約二週間を要する左顔面、左肩甲部等切創の傷害を負わせ、
第二、業務その他正当な理由がないのに、前記日時、場所において、刃体の長さ一八・五センチメートルの花小刀一丁を携帯し、
第三、昭和四九年七月一三日ごろ、泉南市北野三八五番地日本化学工業株式会社付近道路において、自己所有の普通乗用自動車(フオードサンダーバード八六A四八年式、泉三三さ三一―七二号)を運転し、制限速度五〇キロメートル毎時をこえる約七〇キロメートル毎時の速度で走行中、同車に設備した通信無線機(IC―二二型トランシーバー)を操作し、固定無線局である大阪府警察本部通信指令室と移動無線局である警ら用自動者間に交信中の超短波無線通信を傍受して、大阪府泉南警察署員が前記会社前において交通検問を実施することを知り、走行速度を前記制限速度に減速してその検挙を免がれ、もつて無線通信を窃用し、
第四、暴力団い聯合系泉会泉南支部長で有限会社和泉商事代表取締役であり、分離前の共同被告人中井憲作は同泉南支部組員で同社取締役、同原政則は同支部組員で同社係員であるが、右三名は共謀のうえ、
一、昭和四九年七月二六日、前記有限会社和泉商事と当座取引のある大阪府泉南郡阪南町尾崎町六八番地株式会社泉州銀行阪南支店において、前記中井、原の両名が同支店長岡田充朗、支店次長西田晴美から、前日交換呈示された約束手形一通(振出人有限会社和泉商事代表取締役辻春夫、額面一、〇〇〇万円、支払期日昭和四九年七月二五日)につき、同店当座勘定元帳残額が五、〇八一、九八三円しかなかつたので、預金不足により不渡処分とする旨通知されるや、支払銀行に一時立替させる(いわゆる過振らせる)方法によつて右処分を撤回させようと企て、右両名に対し、「あの手形は社長が盆中で敗けた金や、どうしても払わないかんのや。お前のところで落せ。お前らうちの社長を殺す気か、どうしても不渡りにするならしてみろ、お前の店をたたまなしよがないようにしてやる。泉州銀行がどの位力があるか泉会と一回やるか、おのれら尾崎で商売できんようにしてやる。ヤマあげるぞ。」等と怒号し、もし前記手形を不渡処分にすれば、同人らの生命・身体並びに同銀行の営業活動等に危害を加える旨を告知して脅迫し、同人らを畏怖させ、よつて、右支店長岡田に、泉州銀行が一時右手形金を立替えることを承諾させて手形の不渡処分を撤回せしめ、もつて前記手形債務のうち四、九一八、〇一七円の支払いを免れて財産上不法の利益を得、
二、前記の畏怖に乗じ、更に別紙恐喝一覧表記載のとおり、昭和四九年七月三一日から、同年八月二七日までの間、前後一八回に亘り、同銀行に支払呈示された、右有限会社和泉商事代表取締役辻春夫振出の約束手形又は小切手につき、いずれも当座勘定元帳残額がないのに、支店長岡田に対し、その都度「銀行で過振れ」と申向け、同人をして前同様畏怖させ、もつて前同様の方法で手形小切手債務合計五四、五二四、八六〇円の支払を免れて財産上不法の利益を得、
たものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
一、判示第一のうち、示兇器脅迫の点は暴力行為等処罰に関する法律第一条、昭和四七年法律第六一号による改正前の罰金等臨時措置法第三条一項二号(刑法第六条、第一〇条を適用)、刑法第六〇条に、傷害の点は刑法第二〇四条、前記罰金等臨時措置法第三条一項一号(刑法第六条、第一〇条を適用)、刑法第六〇条に(いずれも懲役刑選択)、
判示第二は銃砲刀剣類所持等取締法第二二条、第三二条二号に(懲役刑選択)、
判示第三は電波法第五九条、第一〇九条一項に(懲役刑選択)、
判示第四はいずれも刑法第二四九条二項、第六〇条に、各該当
一、併合罪につき刑法第四五条前段、第四七条、第一〇条(判示第四の一の罪の刑に法定の加重)
一、未決勾留日数の本刑算入につき刑法第二一条
一、没収につき刑法第一九条一項一号、同条二項
一、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条一項本文
(一部無罪)
昭和五〇年(わ)第三七号電波法違反の公訴事実第二は「被告人は昭和四九年八月二日ころ、大阪府泉南郡岬町より和歌山県下に至る国道二六号線において、無線通信機を設備した自己所有の普通乗用自動車を運転走行中、大阪府警察本部通信指令室が送信した超短波通信の内容を傍受し、これを同乗者岡田充朗らにことさらに聞かせ、もつて特定の相手方に対して行われる無線通信の秘密を漏らしたものである。」というのであり、前掲判示第三の事実認定に供した各証拠と、岡田充朗の司法警察員に対する昭和四九年九月二八日付、同年一〇月五日付各供述調書および西田晴美の司法警察員に対する同年九月二七日付供述調書によれば、被告人は、右公訴事実記載の日時、場所において、無線通信機を設備した自己所有普通乗用自動車に、岡田充朗、西田晴美らを同乗させて走行中、同人らに「この車の無線機は警察通信を傍受できるんや、一回聞かせてやる。」等と言いながら無線機のスイッチを入れ、「○○から警察本部へ」とか、「八〇〇……」「六〇〇……」等の通信を傍受し、右岡田らに聞かせたことを認めることができる。
しかしながら、電波法第五九条は「無線通信を傍受してその存在若しくは内容を漏らし」(又はこれを窃用し)てはならないと規定し、その罰則である同法第一〇九条一項は「無線通信の秘密を漏らし」(又は窃用し)た者は一年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する、となつているのである。すなわち前記電波法第五九条に違反する行為のうち、罰則の対象となるのは「秘密を漏らし」(又は秘密を窃用し)た場合のみであり、単に無線通信の存在やその内容を漏らすのみでは罰則の適用はないものであるところ、前記傍受した通信内容が「秘密」であるかどうかは証拠上明らかでないといわなければならない(この点、弁護人が主張するとおりである。)。のみならず、右のような状態で同乗者に無線通信を聞かせることが、それを「漏らした」ことになるのかどうかも疑問である。
よつて、右電波法違反の公訴事実第二は犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法第三三六条により、無罪の言渡をする。
よつて主文のとおり判決する。